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LAND ROVER マガジン – 第40号

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最新号では、南極探検を控えたふたりの若き冒険家が、DEFENDERを駆ってトレーニングに挑む様子を取り上げています。また、レンジローバー50周年を記念したドバイへの旅もご紹介。数々の発見が、あなたの好奇心をかきたてるでしょう。他、人類の未来を左右する先進テクノロジー開発者たちの話もお楽しみください。

間 をかけて 風 雨

間 をかけて 風 雨 によって 彫 り 込 まれたもののようだった。 一 歩 一 歩 が 何 かを 得 る 作 業 だった。 一 歩 進 む 度 に 呼 吸 を 意 識 さ せられた。アンデス 山 脈 は「ペースを 落 とせ」と 言 っている。 ユーニーは 思 考 の 片 隅 で、 何 かの 気 配 を 感 じた。ポールを 握 る 手 に 力 を 入 れ、 辺 りを 見 回 す。 日 の 出 前 に 単 独 でハイキン グをすることは 安 全 とは 言 えない。だが 彼 女 はこれまでの 人 生 をずっと「 安 全 」にやり 過 ごしてきたのだ。 辺 りを 見 回 してみても、いたずらな 風 が 吹 き、 足 元 でうごめく 山 の 圧 力 を 感 じ る だ け だ っ た 。 道 が 曲 がりくねる 度 に 気 温 が 下 がっていく。ユーニーの 呼 吸 と 引 き 換 えに 広 大 で 開 放 的 な 空 間 が 現 れた。まるでアンデス 山 脈 が 樹 木 限 界 線 を 落 としてしまったようだ。 そ の 時 、 茂 み か ら ガ サっ と い う 音 が し た 。 金 色 の ファ ー が 飛 び 跳 ね て ひ ら めく。 暖 か い 、ずっし り とし た 犬 の 体 。 足 が も つ れ る。 彼 女 の 体 は 砂 利 道 に 倒 れ 込 む。 青 い 空 。 砂 ぼこりが 舞 う。ブ ー ン と 虫 が 飛 ぶ 。 暖 かい 何 かを 顔 に 擦 りつけら れてユーニーは 生 き 返 った 心 地 に な っ た 。ラ ブ ラ ド ー ル が ユ ー ニ ー を 見 下 ろして い た 。だ ら り と 垂 れた 耳 、 大 きく 優 しい 目 、そして 黒 く 濡 れた 鼻 先 がユーニーを 現 実 に 引 き 戻 す 。 その 時 、ユーニーは 犬 の 後 ろに 立 って い る 男 を 見 た 。 引 き 締 まっ た 体 。 鋭 い が 遠 くを 見 る よう な グ レ イ が か っ た ブ ラ ウ ン の 目 。 「ご 自 分 の 犬 はしっかり 管 理 し てくだ さ い 。」と ユ ー ニ ー は 鋭 く 言 った。 転 んだ 時 に 打 ったところが 痛 む。 「 俺 の 犬 じゃないよ。 野 良 犬 だ と 思 うよ。」 男 は 何 食 わぬ 顔 で 応 え た 。「 手 を 貸 そ う か ? 」 「いえ、 結 構 です。」 肘 をついて 体 を 起 こしながら 応 える。「 大 丈 夫 で す 。」 「 一 人 でハイキングは 危 ない よ。 分 かってる?」 心 から 気 遣 いと 父 親 のような 恩 着 せがましさを 同 じくらい 織 り 交 ぜたようなトーン で 男 は 言 った。 自 己 完 結 的 で、 完 璧 にバランスの 取 れた 言 い 方 だ。それが 彼 女 をイラつかせた。 「ラレスまで 歩 いてるんです。」ユーニーは 男 に 見 下 ろされ ないように 立 ち 上 がった。「 後 はそのままマチュピチュまでトレ ッキングするつもりです。」 男 がうなずく。「じゃあ 同 じルートだ。 俺 はジェイコブ。」 ユーニーはためらいながら 応 える。「ユーニーです。」 「 引 き 返 した 方 がいいんじゃないかな。」とうとう 彼 は 言 っ た。「ほら、 高 度 がさ。 山 の 空 気 に 慣 れるには 少 し 時 間 がかかる よ 。」 彼 女 は 躊 躇 したが、「 自 分 の 呼 吸 を 感 じるのが 好 きなんで す。どうして 他 の 皆 さんみたいにバスでラレスに 行 かないんで す か?」と 言 い 返 し た 。 「あんまり 金 がないんだよ。」と 彼 。 「じゃあどうして 旅 をするんです?」 「どうしてダメなんだい?」と 彼 が 言 い 返 す。「 世 界 は 広 いだ ろ。 出 来 るだけ 見 て 回 ってるんだよ。 全 部 は 無 理 でもさ。」 「 広 いですね、 世 界 は。」ユーニーが 言 う。「 狭 すぎると 思 うこ と も 時 々 あ る け ど 。」 「そいつはおかしな 話 だね。」 彼 が 言 う。「 歳 は 関 係 なくね。」 「そうやって 私 の 年 齢 を 聞 く 手 口 ですか?」ユーニーがばか にしたように 言 う。 「 俺 はナンパ 師 じゃないよ。」 彼 は 真 剣 に 言 った。「 君 がひっ くり 返 ったのを 見 たから、 様 子 を 見 なきゃと 思 っただけさ。」 ユーニーは 不 信 感 をあらわにしていた。 ジェイコブはバックパックを 背 負 い 直 した。「 食 べ 物 は 持 って る? 水 は?」 「 必 要 なものは 全 て 持 っています。」と 彼 女 が 言 う。 「あぁ、そうですか。」 彼 はうなずいて 立 ち 去 り、すぐに 曲 がり くねった 道 の 小 さな 点 になった。 ラブラドールはユーニーに 付 いてきた。 時 折 彼 女 の 足 に 当 たる 尻 尾 が、 暗 くなる 前 にラレスへ 到 着 するように 急 かしてい るようだった。 気 温 が 急 に 下 がり、 冷 たい 風 が 彼 女 の 髪 や 頬 を 撫 でた。 震 える 足 でラレスに 辿 り 着 く。 彼 女 はガイドを 失 った。ラブラドー ルは 抱 きしめられていたユーニー の 腕 からすっと 抜 け 出 すと、 村 の 外 れにある 家 の 中 に 消 えていっ た。 温 泉 から 立 ち 上 がる 湯 気 の 中 に 踏 み 入 り、 湯 に つ か る 。 暖 か い お 湯 が 彼 女 の 体 を 少 しずつ、それ から 全 身 を 溶 かしていくようだっ た。 誰 かの 声 が 聞 こえては 消 える。 ユーニーには、 旅 行 者 たちのおし ゃべりや 似 たり 寄 ったりの 話 が 疎 ま し か っ た 。お 互 い に そ ん な に 話 すことがあるのかしら。 話 すことが なくなったらどうするの? 愛 がなく なったら? 彼 女 の 頭 の 中 で、 旅 行 者 たちはいつの 間 にかユーニー の 父 と 母 になっていた。 このミニバンのドライバーは 居 眠 り 運 転 している。ユーニーは 確 信 し て い た 。サ ン タ・テ レ サ に 向 か う 曲 がりくねった 片 道 斜 線 を2 時 間 のドライブ。アンデス 山 脈 が 暗 闇 に 輪 郭 を 浮 かび 上 がらせ、 空 には 星 が 輝 く。そしてドライバーのまつげが 頬 骨 に 向 かって 降 りて いく。 ユーニーは、 今 にも 崩 れそうな 崖 の 縁 からミニバンが 転 落 していくのを 想 像 していた。 峡 谷 の 中 へ、 深 く 落 ちていく。 野 生 のビクーニャだけがそれを 見 ていた。 彼 女 が 死 んでも、あの 峠 に 並 ぶきらびやかに 飾 り 立 てられた 墓 石 に 彼 女 の 名 前 が 刻 ま れることはないだろう。 死 ぬことは 彼 女 の 選 択 肢 にはなかっ た 。 誰 か の 人 生 を ま ね る こ と も 。 ユーニーは 必 要 とあらばすぐにでもハンドルをつかんで 操 縦 で きる よう に 、 用 心 深 く、 常 に 手 を 少 し 上 げ た ま ま 構 えて い た。 後 ろの 席 の 老 婦 人 が 解 いたブライトハットの 紐 が 彼 女 の 顔 に か か り、 婦 人 は そ の ま ま う た た 寝 を 始 め た が 、 気 に し な か っ た。きっとマウンテンスピリッツである「アプ」が 彼 らを 見 守 って いたのだろう。サンタ・テレサには 何 事 もなく 到 着 した。 翌 朝 、マチュピチュの 麓 からシャトルバスに 乗 った。 深 い 緑 の イラスト:カルバン・スプレーグ 著 者 写 真 :マット・ドゥーマ 中 に 燃 えるように 赤 い 熱 帯 の 花 々が 咲 き、 玉 虫 色 の 鳥 たちが 生 き 生 きと 暮 らす 山 中 をバスが 登 っていくにつれて、ユーニー は、この 人 を 寄 せ 付 けない 自 然 の 風 景 や 川 の 怒 号 、 果 てしのな い 断 崖 のミステリアスで 目 の 離 せない 魅 力 に 圧 倒 されていた。 階 段 を 上 った 先 にパスポートとチケットを 確 認 するための 列 ができ、 様 々な 国 の 言 葉 が 飛 び 交 っていた。 旅 行 者 たちは 花 こ う 岩 の 階 段 を 上 り 下 りしながら、 写 真 を 撮 ることに 夢 中 だ。こ れらの 写 真 は 永 久 にクラウドに 保 存 されるのだろう。 彼 らが 撮 影 している 廃 墟 のように。 一 方 、ユーニーは 夢 中 で 前 を 見 つめ ていた。 彼 女 の 少 し 前 方 でいつもキラキラと 揺 らめいている 人 生 を、 自 由 を 切 望 しながら。 もっと 日 常 的 な 観 点 から 見 ると、 彼 女 が 見 ていたのは 水 の ボトルを 売 っている 女 性 だった。ボストンに 置 いて 来 たくはなか った 自 身 の 所 有 物 を 全 て 詰 め 込 んだ 重 いバックパックを、 何 と か 運 びながら 旅 をするのは 喉 の 乾 く 作 業 だ。コインを 何 枚 か 探 し 出 し、 女 性 の 方 へ 向 かった。 すると 視 界 の 端 に 見 覚 えのあ る 顔 を 捉 えた。 ユーニーはじっと 見 てから 素 っ 気 な く 言 っ た 。「 偶 然 ね 。」 「 お ぉ 。」ジ ェ イ コ ブ が 驚 い て 微 笑 む。「ほとんど 奇 跡 だね。」 今 回 、ユーニーは 前 よりも 注 意 深 く 彼 を 分 析 す る こ と に し た 。 初 めて 会 った 時 は 気 付 かなかった が、 彼 は 歯 切 れの 良 い 話 し 方 をし たし、 彼 のきちんとした 姿 勢 は 群 れをなして 動 き 回 る 旅 行 客 たち 中 では 際 立 っていた。アスリートのよ うな 体 。もう 一 度 思 い 浮 かべてみ る。もしくは 格 闘 家 。 「 こ れ は きっ と 宿 命 ね 。」ユ ー ニ ーはじっと 彼 を 見 つめながら 言 っ た 。「 ま ぁ 、 私 に 付 い て く る ん だ っ た ら 、あ な た も 少 し は 役 に 立 って よ ね…。」ユーニーは 自 分 のバック パ ッ ク を 下 す と 、い た ず らっ ぽく 笑 って 彼 に 押 し 付 け た 。 「モタモタしないで 付 いてき て!」 彼 女 はそう 言 うと、まだ 困 惑 しているジェイコブに 背 を 向 け、 波 打 つ 青 い 山 々に 囲 まれた、まる で 空 中 に 浮 いているかのような 古 代 都 市 に 続 く 小 道 へと 向 か っていった。 美 の 科 学 、そして 科 学 の 美 を 理 解 した 古 代 の 技 術 者 たちによって 建 設 された 水 路 、 寺 院 、 段 々 畑 。 狭 い 小 道 は 称 賛 する 人 々で 込 み 合 っていたが、ユーニーは 人 の 流 れに 逆 らって、 左 に 曲 がり、 次 は 右 へ、そして 上 に 上 り、 太 陽 の 神 殿 へと 向 かった。 誰 かが 彼 女 の 名 前 を 呼 んだ。 風 だっ たかもしれない。 ユーニーは 階 段 状 になった 場 所 でとうとう 足 を 止 め、 彼 が 追 い 付 いてくるのを 待 った。 「こんなに 混 んでるなんて 知 らなかった。 閑 散 期 だと 思 って たのに。」と 彼 に 言 う。「 私 ね、 消 えたかったの。いや 違 うかな、ど こでもない 所 に 行 きたかった。」 「ペルーはどこでもなくないだろう。」と 彼 が 言 う。 「ねぇ、あなたがどうしてここに 来 たか 知 ってるわ。」 彼 女 は 決 然 とした 声 で 言 う。 彼 は 困 惑 しているようだった。 彼 の 両 目 に 不 安 がちらつく。 「あなたは 自 分 の 仕 事 もまともにできないようね。」ユーニ ー が 落 ち 着 い た 声 で 言 う 。 ジェイコブが 混 乱 した 様 子 で 立 ち 上 がる。 彼 の 名 前 はそもそもジェイコブだろうか? 違 うかも 知 れな い 。 「 要 するに 私 が 言 いたいのは、あなた、スパイには 全 く 向 い てないわ。」 彼 は 取 り 繕 うことをすっかり 忘 れて、ユーニーを 正 面 から 見 た。「 失 礼 ですが、 朴 さん、 私 は 要 人 警 護 のプロです。そしてあ なたは 自 ら 消 息 を 絶 ち、 自 身 を 危 険 に 追 い 込 んだ。」 「ええと、ボディガードさん、 私 は 戻 るつもりはないとお 父 様 に お 伝 えくだ さ い 。」 気 まずい 沈 黙 が 生 まれる。「これからどうするつもりですか? 」とうとう 彼 が 口 を 開 いた。 「 私 は 旅 を 続 けるわ。」パタゴニアまで。それから 海 に 呼 ば れるままに。「それで、あなたは 私 に 付 いて 来 ようって 言 うの?」 「 朴 さん、ご 家 族 は 必 ず 追 って き ま す よ 。 断 固 として 連 れ 戻 す お つ も り の よ う で し た 。」 それは 彼 女 自 身 が 一 番 分 かっ て い た 。 だ が し か し 、 行 方 をくら ま し た 者 たちは 誰 しも、 砂 の 上 の 落 書 き のように、 自 分 の 人 生 を 消 しては、 また 自 ら 描 き 直 して 来 たのだ。 一 人 の 少 女 が 一 つの 大 陸 から、 半 球 から 消 え 失 せるなんて 難 しい 事 で は な い は ず だ 。そ う で しょう? まず 彼 女 がしなければならな いのは、ジェイコブを 撒 くことだ。 ユーニーは 彼 を 見 て 見 ぬふり した。 彼 は 突 然 目 的 を 失 って 立 ち 尽 くしている。そして 空 を 見 た。 白 い 雲 が 流 れ て いく。た ゆ み なく、 形 を 変 えながら。 少 なくとも 今 日 はまだ 彼 女 の も の だ っ た 。 この 呼 吸 も、そして 次 の 呼 吸 も。 彼 女 の も の だ 。 70 71

 

LAND ROVER マガジン

 

最新号では、南極探検を控えたふたりの若き冒険家が、DEFENDERを駆ってトレーニングに挑む様子を取り上げています。また、レンジローバー50周年を記念したドバイへの旅もご紹介。数々の発見が、あなたの好奇心をかきたてるでしょう。他、人類の未来を左右する先進テクノロジー開発者たちの話もお楽しみください。。

Jaguar Land Rover Limited: Registered office: Abbey Road, Whitley, Coventry CV3 4LF. Registered in England No: 1672070

※当ウェブサイトに掲載されている画像は欧州仕様車の画像となります。日本仕様車と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。日本仕様車は右ハンドルです。